アカデミー進級試験 Side-B 03



カチ、カチ、と時計の秒針の音だけが広い室内を支配していた。

待ちに待ったMS工学の再試験日。少年は真剣な眼差しで手元のプリントに向かう。
今度こそヘマなどするものか、と決心した通り、半分を過ぎたレイの解答用紙は順調だった。
やはり、どんなに勉強していても、前の日におろそかにすれば試験は失敗する。
それを本試で嫌がおうにも自身で体験させられたレイにとって、
昨晩は結構な試練の日・・・のはずだったのだが、
なぜか昨日ギルバートは研究所から遅く帰り、「疲れたから・・・」と言ってすぐにベッドに潜り込むものだから、
なにか不思議な気はするが、レイにとってはギルバートに誘われなかったことは幸いで、
彼を寝かしつけると、そのまま試験勉強に没頭できたのだった。
運がいいといえばそれまでだが、ギルバートには感謝すべきだろう。
あと30分と少しで、やっと全ての試験が終わる。
レイは頭の隅でそんなことを考えて、少しだけ表情を緩めた。
なんだかんだで、やはり補習期間は辛かったのだ。

「あと30分です」

試験官が、折り返し時間を告げた。
レイは再び、問題用紙に目を落とした。
後半は、主に小論文。今度こそ、カンペキな理論を書き上げてみせる。
気合を入れてペンを持ち直すと、流暢な文字で難解な論理文を記述し始めた。

―――と、その時、ガタリ、と音がした。
またか、と音だけ聞いて、レイはうんざりと顔を顰めた。
このアカデミーの責任者・・・もといプラント評議会の現国防委員長は、人を呼ぶのが好きらしく、
ことあるごとに行政府の重鎮や、教育関係の者などが視察に来る。
やはりプラント内の平和を守るザフト軍の士官学校というだけあって学生達は注目されているのだろう。
皆、基本的には慣れている。
今回もまたか、くらいの感覚で、レイもまた何気なくドアのほうに目をやった。

「・・・・・・――――――っ・・・!!!!」

思わず、声を上げそうになってしまった。
部屋に入ってきたのは、国防委員長、ヘルマン・グールド。
そして、彼に促され、その長身を少しだけ屈ませてドアをくぐる青年が1人。
レイは目を見張った。
それは、自分がよく見知った・・・というより、毎日家で目にしている存在であったからだ。

(・・・・・・ギル・・・!!)

その時、あろうことか青年のオレンジ色の瞳と目が合ってしまい、
レイは慌てて顔を下向けた。
いくら彼と面識があるといっても、見ていられるわけがない。
こんな、・・・こんな、隠し続けてきた再試験当日に、ギルバートが授業参観よろしく視察に来るなど考えられなかった。
そもそも、今日の彼の予定は、
工場区のあるマイウス市の軍事施設の視察、という話だったというのに、
それでは、ギルバートは騙したのだろうか、自分を。
なんとか目の前の試験用紙に集中しようとするが、レイの頭は既に真っ白になっていた。

コツ、コツと靴音が近づいてくる気配。
もちろん、自分のほうに向かってきて、そして話しかけてくるなどは思っていない。
ギルバートとレイの関係は、あくまで極秘事項なのだ。
同居していることを知る者も、誰もいない。
だから、いくらギルバートが非常識な人間とはいっても、そのあたりは心配することはないが、
まさか、こんな、・・・いや、もう何も考えられなかった。

ギルバートは、いつから自分が再試だということを知っていたのだろうか。
先ほど一瞬目が合った時、ギルバートはさも楽しそうに笑っていた。
少なくともレイにはそう見えた。
きっと、偶然ではなく、自分にあえて嘘をつき、そうして自分を困らせることが目的だったのだろう。
もしかしたら、日頃ことある事に流されてしまう自分への腹いせだろうか。
なんであれ、ギルバートが子供のような自分への対抗心からこんなことをしただろうことは事実で、
レイは自分の席の列の後ろに足を運んだギルバートを、
背中だけで意識する。
その気配がだんだんと近づいてくるのは、今のレイには恐怖にしか思えなかった。
ゆっくりとした歩みが、心持ち自分の真後ろで止まる。
くすりと、笑う声が聞こえた気がした。

(・・・・・・―――――っ・・・)

レイは、横を通り過ぎていくギルバートのその背中を、
ありったけの力で睨みつけた。もちろん、気付かれないようにこっそりと、である。
何も語らない背中だったが、それにすら笑われている気がして癪に障った。
どこか機嫌の良さそうなリズミカルな靴音にイライラしながら、レイは意識的に再度試験問題を解き始めたのだった。










「っギル!!!なんであんなところにいたんだ!!」

ギルバートが帰ってくるなり、レイは物凄い形相で玄関先の彼を睨んだ。
しかし、対する彼は、しれっとした顔で靴を脱いでいる。

「心外だね、レイ。私は、自分の仕事をしっかりと果たしてきただけだ。君に怒られるようなことをしてはいないと思うが・・・」

そう返しながらも、どこかにやけた笑みを崩さないギルバートに、
レイはギリギリと奥歯を噛み締める。
台所では鍋がごとごとと沸騰し音を立てていたが、今のレイには関係ない。
心構えがあったならまだよかったものの、不意打ちを衝かれたのだ。絶対に成績に響くに決まってる。

「だったら、なんでマイウス市とか嘘をつくんだ!!・・・まったく」
「そりゃ、君を驚かせようと思ってね。
 でも、君だって同罪だろう?授業と言って置いて、再試験だったらしいじゃないか。私には、そんなこと言ってなかっただろう?」
「そ、それは・・・。でも!!」
「ほら、鍋が音立ててるよ、レイ。」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」

白々しいギルバートの言葉にイラつきながらも、仕方なくレイは鍋の吹きこぼれを抑えに台所へと向かった。
ちなみに今夜の夕食はクリームシチュー。今朝、明日から春季休業だということで、彼の好物のそれを強請られていたのだ。
正直腹いせに、今夜はオアズケにしてやろうかとも思ったが、
それではこちらも同レベルの子供に成り下がってしまう。それだけは嫌だった。
レイははぁ、とため息をついた。
それにしても、まさか再試験の様子を、彼に見られるなんて。
このまま引き下がっていては、大変な誤解をされそうだ。
ギルバートの為に努力を重ねているというのに、手を抜いたと思われては困る。
鍋の中のシチューをお玉でかき混ぜながら、レイはどう言い訳すべきか考え始めた。
しかし、何を言っても不毛な弁解にしかならなそうだ。
口の上手さにかけては、ギルバートに叶う者はいない。口喧嘩をさせたら、彼に勝てるのは、今はいないかの存在だけだろう。
到底、活路が見いだせそうにない状況に、レイはがっくりと肩を落とした。
これほどに動揺してしまったことが、果たして成績にどう影響するのか・・・。それが心配だった。
ふと、背後に気配を感じて、少年は振り向いた。
しかし、振り向く前にふわりと後ろから抱き締められ、少年はギルバートの腕の中に抱き込まれてしまう。
不意打ちのそれにレイは背後を睨んだが、まだ少年故の小柄な身体を抱いた青年は、そのまま彼の肩に顔を埋めてしまった。
ぴったりと触れ合う背から彼の熱を感じる。
やれやれ、とレイは彼をそのままに、目の前の煮えた鍋の味見を始めた。
滑らかな舌触りは、クリーム系統の好きなギルバートのためにレイが自ら分量を調節したトクベツのもの。
彼好みの味に仕上がったことを確認して、レイは火を止めた。
そっと、彼の腕に手を添えて。結局、どうしてこう、自分は彼に甘いのだろう。

「・・・ギル。ほら、できたぞ」
「ん。いい匂いだね」
「・・・俺を騙した罰で、オアズケにしようと思ってるんだが?」
「そんな心にもないことを言うんじゃないよ。私のために、心を込めて作ってくれたんだろう?」

ギルバートは、その年に似合わないキラキラとした目をしていて、
そんな彼に翻弄されている情けない自分に、レイは内心ため息をつく。
仕方が無い。結局、自分は彼のことが好きなのだ。
レイは出しておいたシチュー皿に、出来立てのシチューを盛りつけた。
あがる湯気とほのかな匂いに鼻を鳴らすギルバートに、しかし、これだけははっきりさせておかなければ。

「・・・言っておくが、別に俺は手を抜いたわけじゃないからな」
「ん?・・・ああ、わかっているよ。カンニングの疑いをかけられたのだろう?」
「っ・・・・・・」

どこまで聞いたんだお、この狸は・・・!
これでは、再試の原因までバレバレだった、ということではないか。
この男のことだ、もしかしたら上手い事を言って本試験の成績まで見ているかもしれない。いや、そうに違いない。
あの、悪夢のような成績を自分の知らない所で見られていたなんて、最大の屈辱だ。穴があったら入りたい。
レイは改めて、あの本試の前の日の晩の、酔っ払いに怒りを覚えた。
そもそも、あの日真面目にやっていれば、こんなとばっちりを受けることなんてなかったというのに。
もちろん、今責めても意味がないのだが、
そんな自業自得のようなことをギルバートに責任転嫁しながら、レイはきっちりと告げた。

「・・・俺は、カンニングなんてしてないからな!」
「ははっ。そんなにムキにならなくても。・・・なかなか、君も可愛いな」
「―――っ、事実を主張して何が悪いっ!!」

珍しくこうしてムキになる少年の姿が久しぶりで、
ギルバートはついついからかうような言葉をかけてしまう。
レイは、そんな彼の心もわかってはいたが、やはり濡れ衣をネタにからかわれるなど黙ってはいられない。
だから知られたくなかったのに、とレイは口の中で漏らしていた。
いつになく饒舌な彼の唇を、どうにかして黙らせてやりたい。
レイは、少年をからかうのに夢中になり、腕の力をおろそかにしている彼の隙をついて、彼と身体を入れ替えた。
すかさず、唇を塞ぐ。舌を絡めると、くぐもった声が口の端から洩れた。

「っ・・・ふ、うっ・・・・」

もちろん、ギルバートは逃れようと腕を突っぱねたが、もはや後の祭り。
シンクを背に、寄りかかるようにキスを求められ、後ろにひっくり返りそうになり、慌ててギルバートはテーブルの端を掴んだ。
もう一息、とレイは膝で彼自身を擦ってやる。
ギルバートは既に涙目で、キッと少年を睨みつけた。快楽に弱い自分が、我ながら情けない。

「・・・っ卑怯だぞっ!!こんな・・・、あ、ああっ・・・」
「どっちがだよ?ヒトの濡れ衣をネタにからかう方が、ひどいだろう?」
「や・・・、あっ・・・あ・・・!」

ぐりぐりと膝で刺激され、衣越しからでも敏感になっているのがよくわかる。
レイはそんなギルバートにほくそ笑むと、そのまま更に彼の熱を煽るように刺激を与え始めた。
彼に抵抗する隙を与えないように、性急に行為を進めていく。
両手でベルトを外され、簡単に自身を前に晒されてしまうと、ギルバートは恥ずかしげに目を閉じる。
それをいいことに、少年は彼自身を両手で包み込み、熱をもったそれを激しく扱き始めた。
いきなり与えられた強烈な快感についていけず、彼の身を離そうと腕を突っ張ろうとするが、
瞬間ぐらりと背が揺らいでそちらの方に意識が向いてしまう。
レイはくすりと笑い、彼の身体を安定させるようにシンクの端に腰をかけるようにして寄りかからせた。

「・・・レ、レイ・・・っ」

不安げな色をそのオレンジ色の瞳に乗せるギルバートは少年を見つめたが、
レイは構わず肌蹴させた上着から覗く白磁の肌に、舌を滑らせる。

「・・・まだ、夕飯には時間があるだろう?」

囁いてくる言葉にまで感じてしまうギルバートは、そんな少年に諦めたように瞳を閉じた。
いくら夕食時間までには間があるとはいえ、こんな、明らかに作業が途中の台所で、
自分の横には煮えたばかりの鍋と、しかも盛りかけのシチュー皿まであるのだ。
こんな場所で、到底ギルバートが素直に身体を開けるはずがない。
しかし、そんな彼の戸惑いを、彼のすべてを腕に抱く少年は楽しげに笑った。
そもそも、"ココ"に足を運び、誘うような仕草で自分に近づいたのは彼自身なのだ。
火遊びは火傷をする―――。今の彼の状況は、まさにそれだ。

「ギル・・・可愛いよ」
「・・・っあ・・・!あっ、ん・・・っ」

言葉と共に、少年の手が動きを再開させた。
外気に曝され、少年の目の前に晒され、もはやギルバートになす術はない。
少年の執拗な刺激に次々と蜜を零してしまう自分を、ギルバートは恥じたが、だからといって彼に見せてしまう自分の素直は反応を抑えることなど出来ない。
不意に、熱い吐息を洩らす唇が塞がれた。
深く奥まったところまで蹂躙され、何度も角度を変えられ、舌を絡めて吸い上げられる。
震える身体を止められない。ギルバートはレイの背に腕を回し、思わずしがみ付いていた。

「あっ・・・はぁっ・・・、っひ・・・!」
「気持ちいいか?」

少年は、喘ぐギルバートが自分に縋りついて来たのを見てとると、
いきなり右腕でギルバートの左肢を持ち上げさせた。
激しく膝を割られて、一瞬にしてギルバートの頬が真っ赤に染まる。

「なん・・・っ!!」

驚きと恥ずかしさに耐え切れず、ギルバートは首を振り、その手を外させようとするが、
再び自身と、上下する胸元を嬲られて、快楽に解けた身体はもはや彼の成すがままだ。
少年は、そっと、彼の後ろに手を這わせた。
ギルバートは息を呑んだ。まさか、いきなり触れてくるとは思っていなかったからである。

「ひっ・・・」
「怖い?」

少年の指が触れるそこはぎっちりと口を閉じてしまっているようだった。
不安定な体勢が怖いのか、それとも行為自体に脅えているのか、ギルバートは瞳を揺らす。
そんな彼を見つめ、レイはすっと目を細めた。
酷薄そうな笑みが、口元に刻まれる。
それを真正面から見せ付けられたギルバートは、これから始まるであろう彼の行為に、言葉にならない不安を覚えた。

「あ・・・」
「そんなに怖がらなくていい。力を抜いて・・・」
「んっ・・・!!」

少々乱暴に砲身を擦られて、強い刺激に背中がぞくりと震えた。
その隙に、狭い奥に指を突き入れられ、突然の痛みにギルバートは身を竦ませる。
次の瞬間には侵入者を食いちぎろうとでも言うかのようにキツく締まってしまい、少年は眉を顰めた。
初めてでもあるまいし、少しは慣れてもいいのでは思うのだが、
ギルバートのそこは毎日抱いていても、そのたびにその門を固く閉じてしまうのだ。
レイは内心舌打ちした。
これではまるで、自分など知らないと、身体で訴えられているようではないか。
もちろん、その要因のひとつには、こんな場所で、半ば無理矢理行為を強いてしまった、ということもあるのだが―――。

「・・・ギル」
「あっ・・・、な、に・・・」

いきなり少年の首に回していた腕を外されて、ギルバートは戸惑ったように潤んだ瞳を向けた。
少年は構わず、抱えていた足を下ろし、腰を捕える。
ぐっと引き寄せられると、反動でギルバートは後ろにのめりそうになった。反射的にテーブルに手をついてしまう。
その途端、ダイニングへと続く広く開放的な空間に、割れたような音が響いた。

「あ、っ・・・!!」

ギルバートが身を支えようとした際、偶然、盛りかけだったシチュー皿をひっくり返してしまったのだ。
しまった、と青年は顔を青褪めた。
どちらかというと、悪いのは自分ではなくこんな行為を強いた少年のほうなのだが、
この中身は少年が自分のために心を込めて作ってくれたものなのだ。
どんな理由にせよ、それを零し、無駄にしてしまった。後悔が、胸の内を過ぎる。

「おっ、と・・・。大丈夫か?」
「す、すまない・・・つい」

濡れてしまったギルバートの指先を取り、レイは丁寧に舐め取った。
時間が経っていたため、とっくに温度は下がっていたけれど、少年は指先から付け根にかけてや、内側や指と指の間まで、隅々に舌を滑らせ、付いてしまった乳白色の液体を舌で掬う。
たったそれだけのことで、ギルバートの身体が、再び熱を持ち始めていた。
少年の猫のような赤い舌がちろちろと覗くその様に、どきりとする。
上目遣いにギルバートを観察していたレイは、そんな彼にくすりと笑った。

「・・・ん。美味しいよ、ギル。食べたい?」
「そ、れは・・・」

当然だ。つい先ほどまで、彼の作ってくれたそれを食べる気満々でいたのだ。
だというのに、いつの間にか身体を重ねる羽目になってしまっていた。それに気付いた途端、
ギルバートは自分の中の空腹を思い出す。
そろそろ、腹の虫が鳴きそうだ。早く、彼の作った料理が食べたい。

「・・・そりゃ・・・食べたいが・・・」
「そう・・・。じゃ、」

すっ、と少年の指先がギルバートの唇に触れた。
うっとりと顔を見ながら、もう片方の手をギルバートの口元へ。
鼻先に突きつけられたそれには、先ほど自分が零してしまったクリームシチューの液体がたっぷりと塗られている。
ギルバートは目を疑った。

「やっぱり、残すのはもったいない、だろう?」
「っ・・・・・・!」

ほら、舐めて、と口内で忍び込んできた指先に、ギルバートは顔をしかめた。
もちろん、舌先に触れる味は、いつもの、ギルバート自身が好んだあの味だった。
しかし、どうも素直になれないのは何故だろう。
少年の我侭に、ギルバートはため息をついた。
どのみち、この行為を終わらせてしまわなければ、夕食の時間は来ないのだ。
少年の指に舌を絡ませると、何か淫らな気分になってしまう。
瞳を閉じる。そうすると、舌先に感じる滑らかな味だけが意識を占め始めて、
気づけばギルバートは夢中になって少年のそれを舐めていた。
そんなギルバートに、レイはますます笑みを深めていく。
何度も指で乳白色の液体を掬っては、彼の舌に押し付ける。紅を塗るように、彼の唇を親指でなぞる。

「ギル・・・」
「・・・ふ、うっ・・・、ん・・・!」

涙目になりながら、自分の指先への愛撫を続けるギルバートをひとしきり楽しんだ後、
レイは彼の唇に再び自分のそれを重ねていった。
クリームの滑らかな甘さが、互いの舌の上を滑った。丁寧に舌を絡ませると、うっとりとギルバートも身を預けてくる。
外した指に再びシチューを絡めて、レイはそっと手を下肢に伸ばした。
ギルバートのそれは、先ほどまでの行為のせいか、既に固く勃ち上がり、天を向いている。
青年に口付けたまま、レイはそっと彼自身に触れた。ねっとりと、乳白色の液体が絡みつく。

「ひっ・・・あ、何・・・!?」

生暖かなぬめった感触に、ギルバートは身を竦ませた。
すぐに、砲身が嫌な音を立てて扱かれる。
クリームのせいで滑りのよくなったそれを、レイはグチュグチュと音を立てて容赦なく責め立てていく。
溢れだしてくる彼自身の先走りもまた、それに混じって砲身を濡らしていく。
茎を伝い、その後ろに鎮座する2つの嚢にまで流れていった。
それを、少年は優しく手の中に包み込んだ。ゆっくりと揉みしだいてやれば、もはやギルバートの身体も限界だ。

「っやめ・・・!そこ、いっ・・・」
「イっていいよ」

耳元で囁かれ、背筋がぞくりと震える。
下肢から襲う強烈な快感に、視界しら真っ白に染まった。
責め立てられ、もはや上り詰めるそれを、ギルバートが止める術などない。

「あ―――っ・・・、あ、ああっ・・・!!」

声音と共に、彼の先端から抑え切れない熱が吐き出された。
白濁が、彼の白肌を汚す。達く瞬間をまじまじと見詰められ、ギルバートは顔を背けた。
そんな青年に、レイはくすりと笑う。
舌で、ねっとりと胸元のそれを舐め取ってやる。それだけでも感じるのか、ギルバートは身を竦ませる。
なおも砲身を扱き続ける少年に、
ギルバートは嫌々と首を振った。余韻の残るそこに、過剰の刺激は苦痛でしかない。

「あっ・・・、も、苦しっ・・・」
「ギル。・・・よかった?」

無邪気な顔で覗き込んでくる少年に、ギルバートは唇を噛んだ。
そんな言葉に、素直に頷けるはずもない。目を閉じると、さらりと舌に唇をなぞられる。
レイはギルバートの砲身を手放すと、今度は彼の腰に手を回した。
今だ彼の手はぬめりを帯びていて、彼が肌をなぞる度に体中が液体塗れになってしまう気がする。

「・・・ギル。」

甘く囁かれ、ふっと意識が遠のいた。
力が抜ける。今度は、少年もまたギルバートを支え、大事そうに彼の身体を反対向きにさせ、その背を抱き締めた。
不安そうに振り向く頬に口付けて、目の前の手すりを握らせる。
さらりとした生地のコートの裾を腰の上までたくし上げると、形のよい双丘と、その奥に隠されたギルバートの"女"の部分が少年の目の前に差し出された。
ほのかに朱に染まる彼の滑らかな肌の色に、レイは熱っぽい瞳でその部分を見やる。

「あ・・・、レイっ・・・」
「心配するな。・・・大事にするから」

脅えたような声で自分の名を呼ぶギルバートに、レイは耳元で囁いてやった。
後ろから、耳殻のつけ根を舌でゆっくりとなぞりあげていく。
ぞくりとした快感が、その部分から湧き起こる。甘い感覚に、ギルバートは瞳を閉じた。
やっと大人しくなったギルバートの背を辿り、レイはその奥に指で触れてきた。
やはり先ほど確認した時と変わらず、ギルバートのそこは固く締まっている。
レイは片腕を伸ばすと、先ほどギルバートが零しかけたシチュー皿の残りのそれに指を突っ込んだ。
水分が蒸発し、どろりとした感触のそれを、4本の指に絡め、そうして濡らしていく。
もう片方の指で、レイはギルバートのそこを拡げるようにして自分の前に晒させた。
ギルバートは息を呑んだ。次にされることは容易に想像がついても、
そうそう慣れられるものではない。無意識に腰が引ける。それを、少年の手が引き戻す。
開かせたその部分に、レイは先ほど濡らした指をあてがった。
ぱたり、と足元の床に液体が垂れた。
構わず、ぐっと彼の中に指を挿し入れていく。

「あっ・・・、んんっ―――・・・」

苦しさに、ギルバートは眉を寄せた。異物が内部を犯していく、そんな感触。
だがもう一つ、ぬめった感触がその部分を這い、ギルバートは振り向いた。
あの、先ほどのシチュー皿が目に入る。
その時、ギルバートは見てしまった。
少年の指が、その液体を掬っては、彼の内部に押し入れていたのだ。

「ちょ・・・!なにやって・・・!!」

ギルバートは焦ったように声を荒げた。
ぐちゅぐちゅと音を立てて中を弄っていたそれの正体は、あのクリームシチューだったのだ。
そう思った途端、力を込めてしまった後ろから、乳白色の液体が溢れてきた。
内股を伝うそれに、ギルバートは身体を戦慄かせてしまう。

「っ・・・!!」
「大人しくしてろって言っただろう。腹が減ってるだろうから、折角飲ませてやってたのに」

さも残念そうに言いながら、
レイは涼しい顔で零してしまった液体を掬い、内股を撫でている。
ギルバートは怒りと羞恥がない交ぜになったような複雑な気持ちで少年を睨んだ。
だが、今更。
涙に潤んだ瞳は少年を煽るだけで、逃れようとしても腰に力が入らず。
もはや絶句するしかない状況に、
レイは気にした風もなく再び彼の内部をそのぬめりと指先で解し始めた。
あれほど心では嫌がっているはずだというのに、身体はすぐに熱く蕩けて、今や少年の指を易々と通すほど。

「美味しい?」
「・・・っ・・・バカ・・・ッ!!」

真っ赤に泣き腫らした瞳で、ギルバートはレイを睨みつけた。
けれど、レイはそんな彼にただ笑う。
ぐるりと内部で指を回して、思わせぶりに前立腺の裏側を撫でてやる。
ギルバートは身体の奥深くを襲う快感に唇を噛んだ。
台所の下の戸棚は、ギルバートの前から溢れた先走りによってべっとりと汚れている。
ひとしきり内部の襞をかき回して、やがてレイは満足げに指を引き抜いた。
追いすがるように、ぎゅっとそこが締まりを見せる。
求めるように収縮を繰り返し、乳白色の液体を淫らに零し続けるギルバートのそこに、
少年はうっとりと指を這わせた。
そうして、片手で張り詰めた自身を取り出す。
ギルバートの痴態にすっかり反応していたそれは、2、3回扱くだけですぐに怒張し天を向く。
レイは青年の首筋に唇を寄せ、そうして舌で丁寧に舐め上げた。
ギルバートは身を竦ませた。
体を襲う快感は、もはや抑えられそうにない。
少年の昂ぶりがその部分に宛がわれ、無意識にギルバートは掴んでいた手すりを握り締めた。
瞳を閉じる。唇を噛んで、一瞬後には襲ってくるであろう衝撃に耐えようとする。

「ギル・・・」
「っあ、・・・っっ・・・!!!」

ギルバートの内部のぬめりに呑み込まれていくように、
少年のそれが勢いよく奥まで貫いてきた。
どれほど慣らされていても、指でかき回される衝撃の比ではない。ギルバートは、思わずぎゅっとその部分に力を込めてしまった。
そうすると、狭まった内部から、含み切れない先ほどの液体が溢れ出して来て、
少年の砲身までも白濁に汚れていく。
ギルバートの内部から受ける直接的な刺激と、そんな彼の淫らな姿、二つに煽られ、
レイは震える青年に構わず抽挿を開始する。
腰を抱えて、引き寄せるようにして彼の奥へと何度も自身を滑らせると、頭がおかしくなるような卑猥な音が響いてくる。

「あっ、あ、んっ・・・、っあ・・・!」

そうして、そんな衝撃に、ギルバートが耐え切れずはずもなく、
少年の動きに合わせて、誰にも聞かせることのない、自分ですら信じられないほどの甘い声が洩れてしまう。
ギルバートはもちろん羞恥したが、頭の片隅に残る理性など今のこの状況では何の意味もない。
明らかに快感のほうが彼の思考を支配している。レイの手が伸びてきて、肌蹴られた胸元を撫でてやると、
ひっ、と思わず声が洩れてしまっていた。
しっかりと立ち上がったその飾りを指先で挟むようにして刺激してやると、
ギルバートの後ろが締め付けをきつくする。
そんな反応を楽しみながら、レイは何度も何度も昂ぶりを挿入させては引き戻してやる。
その度に青年の口元からは甘く、切ない吐息が零れ、少年は口元を緩ませた。
ギルバートの素直な反応が可愛くて、ついつい苛めてやりたくなる。
蜜を零し、彼の前をべっとりと汚しているそれに、レイはそっと触れてみた。
ギルバートの雄は、強烈な刺激にもはや極限まで張り詰め、鈴口を痙攣させて泣いている。
ひくひくと口を開閉させるそこに、少年は爪を立てた。
青年は雷に打たれたように背をびくりと仰け反らせた。こんな状態で擦られて、感じないはずもない。

「っああっ・・・!!レイっ・・・、や・・・!」
「感じる?」
「っ・・・、あっ、あう・・・っ!」

耳元で聞こえる低い囁きに、ギルバートはこくこくと首を縦に振る。
与えられる快楽は、頭の中を駆け回る。もはや彼は、少年の言葉に素直に頷く人形のようになっていた。
だが、ギルバートはただの人形ではない。
激しい快感に翻弄されながら、ギルバートの身体はなおも少年の熱が欲しいと訴えていた。
少年の動きにあわせ、無意識に腰を揺らめかせてしまう。
男のモノを咥えて、肉の悦びに身を戦慄かせるギルバートは、
なおも響く淫猥な水音にすら脳を犯され、ただ必死に身を崩すまいとしがみ付いている。
そんな不安定な身体を、少年は支えるように抱き締めた。
レイは眉を寄せた。きゅっ、と締め付けてくる彼の内部は熱く、絡みつくようで、
こちらもそろそろ我慢の限界だ。
唇を噛み締めて達する衝動を押さえ込むと、
すぐそこにある絶頂を目指して、ギルバートの腰を貪欲に貪り始めた。
ギルバートはひっきりなしに声をあげた。
彼もまた、目の前にある絶頂に早く昇り詰めたくて、その身体を揺らめかせている。

「あっ、や・・・、んっ・・・あ!!・・・っ・・・」
「ギル・・・、・・・も、俺・・・」

乱れた姿のギルバートに、少年は眉を寄せた。

「あ・・・、レイっ、早くっ・・・!」

手の中のギルバートを扱いてやれば、緊張からかきつくなる締め付けに、
少年は意識すら持っていかれそうな快感を覚える。
気が遠くなるようなそれに、レイもまたギルバートへの愛撫の動きを激しくする。
あっ、と小さな声が洩れると、手の中の彼の雄が痙攣した。
達する瞬間、ギルバートはうっすらと開けていた潤んだ瞳をぎゅっと瞑った。
頬に伝うそれは、生理的な涙。
身体の震えが止まらない。

「・・・っあ、あああっ・・・!!っ・・・」
「ギル・・・っ・・・」

吹き込まれる少年の自分の名を呼ぶ声音に、とうとうギルバートは脱落した。
抑えることを知らない吐息と共に、次々に精が吐き出されていく。
手の中に精の熱を感じながら、レイもまた彼の奥に自身を解放していた。
達した衝撃で激しく収縮するそこに誘われるように、
何度も熱を彼の中に注いでいく。含み切れないそれが、楔を押し込まれた秘部の隙間から漏れ出していた。
内股を伝う液体に、ギルバートは嫌そうに眉を寄せたが、今の彼に身体を動かす体力もない。

「っはぁ・・・っ・・・」

ただ、甘い吐息を洩らし続ける。
崩れ落ちそうになる彼の身体を、レイはゆったりと抱き締めた。
お互い立っていることすら辛くて、そのままの体勢で床に座り込む。
レイの身体に体重を預けて、ギルバートは熱い息を吐いた。
いまだに、内部は彼自身に犯されたままだ。
どちらとも知れない二人の精と、先ほど散々彼の後ろから零し続けた液体のせいで、
床はもう大惨事だ。

「・・・・・・、・・・汚い、な・・・」
「気にするな。俺は気にしてない」
「・・・・・・」

恨めしそうに少年を睨むギルバートに、レイは苦笑し、
とりあえずいまだに彼の袖に引っかかっているコートだけは汚さないようによけてやった。
あとは、もう洗うしかないだろう。
ちらりと時計を見やると、もはや夕食の予定時間はとっくに過ぎてしまっていた。
そして、丁度いいタイミングで鳴るギルバートの腹の虫。
レイは思わず声を上げて笑ってしまった。
ギルバートは羞恥に頬を染めるが、それももう今更である。
誰のせいだ、と少年を睨んでやると、
はぐらかすように綺麗な笑みを向けられた。
それだけで、ギルバートはどうしても、反論する言葉を失ってしまう。
惚れた弱みか、単なる自分の甘さか。
どちらにしろ、15も年下の少年に翻弄されている自分に、ギルバートはため息をついた。
それでも、抱き締めてくる彼の腕は温かくて、彼はついつい目を閉じ、その熱を追ってしまう。
身体を動かすこそすら億劫で、結局ギルバートは、レイに身を預けたまま、
快楽の余韻に浸った。

「・・・結構時間食ったな。すぐ、用意するよ」
「・・・・・・」
「ギル?」

力が抜けたままのギルバートに、レイは首を傾げた。
何も言わないなど、もしかして自分の強引な行為に怒ってしまったのだろうか。
少年は少しだけ不安そうに青年を覗き込んだ。
ギルバートは顔を背けた。それはなにやら、拗ねているようにも見える。

「・・・・・・シチューのことなんだが」
「ん?」
「・・・・・・・・・もう当分、食べたくない・・・・・・」

ぼそぼそとそう言うギルバートに、レイは腹の中から湧く笑いを必死に抑えた。
あれほど好きだったはずのシチューが、どうやらトラウマになってしまったようだ。
今だ少年の雄を押し込まれたままのそこからは、
やはり今だにぬめる液体が漏れ出していて、ギルバートは居心地悪そうに身を捩っている。
精液と混じり合いなおさらぬめるそれに濡れる彼の滑らかな尻を、
レイはゆったりと手で撫でた。
もちろん、ギルバートは嫌がったが、今の彼に、それに抵抗できる力はない。

「・・・・・・レイ・・・っ」
「なに?」
「・・・・・・」

もう、返す気力もない。
ギルバートは諦めたように少年の腕に身を預けた。
少年が耳元でくすりと笑った気がした。
目を閉じる。
もう、どうでもよかった。ただ、身体の中に燻る熱を感じる、それだけで。

「ギル」

少年の声音が、自分の愛称を囁く様が、ひどく心地いい。
柔らかな金の髪にふわりと周囲を隠され、唇に触れる柔らかな感触に、
ギルバートはため息をつき、大人しく舌を絡ませた。




















そうして、後日。
悪夢の成績発表の日。

クラスごとに一斉に渡される成績表に、皆は興奮気味だった。
その成績に嘆く者、感激する者、やった!と叫ぶ者、人それぞれのドラマがそこにある。
その中で、レイは成績表を手に、
彼にしては珍しく、ボーゼンと立ち尽くしていた。
周囲の騒ぎなど、今の彼には聞こえていない。

「ねえねえシン、再試験の結果、どうだった?」

近くにいたシンに、ルナマリアが声を掛けた。
シンはまじまじと自分の手の中の成績表を見ていたが、やがて顔ににやけ、肩を震わせ始める。
散々もったいぶった後、ルナマリアの目の前に、成績表をバァンとかざす。
そこに書かれた点数を見、少女は驚きの声を上げた。

「へっへ〜ん、どうだ!」
「えぇ、すっごいじゃない、シン!うわ、びっくりの点数!」

そこには、今までのシンの成績からは考えられない点数がはっきりと記されていた。
特にMS工学。ほとんど満点に近い点数が書かれている。
その科目が苦手だ、という本人とは到底思えないそれにルナマリアは素直に驚いてしまう。
シンは偉そうに鼻を鳴らした。

「まあね。
 …そういや、試験中教室に入ってきたあの人、誰だったんだ?あの、髪の長い男の人。」

シンの言葉に、レイはぴくりと耳を動かした。
シンは何気なくそれを口にしたようだが、自分にしてみればかなり敏感になってしまう発言に、
思わずレイは聞き耳を立ててしまう。

「ああ…。デュランダル博士って、何か、遺伝子とか研究してる偉い人みたいだけど?」
「そんな人が、なんでアカデミーに?」
「知らない。視察かなんかじゃない?」

視察なんて、なんで遺伝子研究してる人が?というシンに、レイもまた内心で激しく同意した。
そもそも、本当に、どうしてアカデミーなどに視察に来る話になってしまったのか。
それに、あまつさえ、その日が再試験の日だなんて。
まさか、あんな、再試を受けている時に限って、あの男・・・ギルが来て、しかも見られてしまうなんて。
散々言った愚痴だが、今手元にこうして成績表を突きつけられて、
レイがまたそんな愚痴が洩れてしまうのも当然だった。
彼の目の前の紙には、彼が目を疑うほどの成績が刻まれていたからである。
(まさか…再試を受けているところを、ギルに見られるなんて…。)
再度、レイは肩をがっくりと落とした。

「あ?レイ、何か言った?」
「あ、え?…いや、何でもない。」

シンに聞きとめられ、レイは慌てて首を振った。
つい、呆然としていて内心が口から洩れてしまっていたらしい。危ない危ない。追求されてしまってはいろいろとマズイ。
だが、幸いにも、ルナマリアが話題を逸らしてくれていた。
シンの成績表を目の前に差し出され、レイは上の空のままそれを眺める。
確かに、素晴らしい成績だった。彼の本来の能力をはっきりと示す、かなりの高得点。

「レイも見てよ。シン、すごいよ。レイが言ったとおりじゃん。やる気になったらすごいって。ね?」
「えぇ?あ、ああ、そ、そうだな…。」

どうも、自分はひどく落ち込んでいるらしい。
クラスメイト達のテンションについていけず、レイは心そこにあらず、といった生返事を彼らに返してしまう。
だが、それは普段クールを装うレイにとって大変なミスだった。
ルナマリアに不審がられてしまったのだ。

「うん?なあに、レイ?どうかしたの?気分でも悪い?」

ルナマリアはレイを覗き込む。
シンはシンで、ちらりとレイの手元の成績表を見やった。
どうやら気になっていたらしい。シンはそれを見て、素っ頓狂な声をあげてしまった。

「ええっ!?」

反射的にルナマリアもそれを見てしまう。
レイもまた、自分の成績のあまりのひどさに呆然としていた。
会話は勝手に進んでいく。

「うそお…それ、レイの試験結果?」
「あ、ああ…うん…。」
「お、俺のほうが点数いい…?」
「うっそ、信じられない…。レイがほんとにシンに追い越されちゃうなんて…。」

ルナマリアは、その大きな瞳を更に大きくしてまじまじと成績表を見比べていた。
先日、シンが自分たちより成績が上になるとは考えられない、という内容のことを話していただけに、
驚きも大きいだろう。
だが、反応がよくないレイの態度に、ルナマリアとシンは焦った。
まさか、あれほど成績のよかった彼が自分たちよりも悪い点数を取るなんて、
もしかしたら彼は相当ショックだったのではないか。
二人は先を競って、言葉少ななレイを励まし始めた。もちろん、全くの見当違いではある。

「あ、えと、ほら。誰でも調子の悪いときとかあるもんね。」
「あ、ああ…。」
「そ、そうだよ。きっと熱でもあったんじゃないか、レイ?」
「あ、いや、そうじゃ…。」
「大丈夫だよ。ちゃんと及第点だし、進級さえ出来れば…。」

二人の言葉に、しかしレイはまだショックから立ち直っていなかった。
調子の悪い・・・確かに、そう言われればそうかもしれない。
あんな、自分には心臓の悪い存在が、まさか再試験の現場に来るはずなどなかったはずなのだから。
運が悪かったのだ、自分は。そう、きっとそうだ。
つくづく、あの青年の性格の悪さを呪った。
自分のことを棚にあげてそんなことを思うレイは、見えないところで拳を握り締めた。
これではまた、仕置きでもしないと気がすまない。

「そうそう。俺のこれなんて、ただのまぐれだし。気にするなよ。」
「あ、いや…それは違う、シン。それがお前の実力だ。」

わざわざ自分を卑下しようとするシンに、レイは咄嗟にそれを否定した。
彼の実力は、自分の目で見てよくわかっているつもりだ。
だから、もし本気の彼よりも良い成績を取ろうと思うなら、気を抜くことなど許されないのだ。
そう、そのくらいわかっていたつもりだった。

「いやぁ、でも…。」
「気を使うことはない。次は、俺がお前を追い越すぞ。」
「ふふ…。うん!じゃ俺も、絶対負けない。」

レイの言葉に、シンはその紅色の目をキラキラと輝かせて、真っ直ぐに見据えてきた。
真摯な者のその視線は心地いいと思う。
レイもまた、シンに挑戦するような笑みを向けた。
二人の視線が絡み合う。
そんな彼らを見ていたルナマリアは、やれやれと肩を竦めた。

「あ〜あ、ついていけな〜い。男って、どうしてこう単純なのかしら。」

そろそろ次の授業時間だ。
シンとルナマリアは次の教室へと向かうべく机を片付け始める。
レイもそれに続こうとして、ふとまだ手に持っていたその悪夢の紙を見下ろした。
なんとも、見れば見るほど気が滅入ってしまう。
自分を責める気持ちと、あの彼を責めたい気持ちが相まって、レイは深くため息をついてしまった。
彼がいたという事実だけで心を乱されてしまった。
全く、自分はまだまだ未熟だ。

(ふぅ・・・まさか、ギルに見られたぐらいで、こんな結果になるなんて・・・。もっとしっかりしないと。ギルをがっかりさせるわけにはいかないからな。だがシンに負けるなんて・・・)

レイはぼそりとそう呟いた。
頭ではわかっていつつも、やはり悔しい。ギルバートに認められたいと思うからこそ、尚更。

「お〜い、レイ!」
「早くしないと、次の授業始まっちゃうよ!」
「あ、ああ、分かった。」

遠くから聞こえるクラスメイト達の声に、慌ててレイは我に返った。
時間は10時。もうすぐに次の授業だ。

(はあ・・・。また出遅れた・・・。)

急いで机を片付けながら、レイはまたもや、そんな風に肩を落としたのだった。





end.




TOPへ戻る




Update:2005/07/12/WED by BLUE

小説リスト

PAGE TOP