落日



――自分は一体、何のためにここにいるのだろう?
  自分の迷いが、仲間の命を失わせてしまうのだとしたら。
  自分はここで、何をしているのだろう?

「隊長、艦長がお呼びです。ブリッジへ来るようにと。」
夕陽の下で一人、考えていると、金髪の少年の姿が現れ声をかけてきた。
「…隊長?」
反応のない自分に、いぶかしむ様な彼の言葉が聞こえ、ようやく意識を引き戻した。
「ああ、レイか。すまない…何だったかな?」
「艦長が、ブリッジまで来るようにと。」
「そうか。分かった、すぐに行く。」
そう答えると、彼は敬礼をして踵を返した。が、入り口で立ち止まり、こちらを振り向いてつぶやくように言った。
「少なくとも…。」
「…?」
「ヴェステンフルス隊長の…ハイネさんの事は、隊長のせいではありません。『彼ら』の事は、私には分かりかねますが。」
「レイ…。」
「…差し出がましいことを言って申し訳ありませんでした。失礼いたします。」
突然のことにあっけにとられた自分を気にする風もなく、再び敬礼して彼は去っていった。彼が任務のこと以外で話しかけてきたのは初めてだったろうか?
「…彼にまで慰められるようじゃ、情けないことこの上ないなぁ。まったく。」
努めて明るく声に出し、夕陽を背にゆっくりと歩き出した。

『特務隊、ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしくな、アスラン。』
出会いも…別れも突然で。あの人は、自分にはない明るさと強さを持っていた。
あの人の様でいられたらと、そう思ったのに。
『割り切れよ。今は戦争で、俺たちは軍人なんだからさ。でないと…死ぬぞ。』
『ストライク…。撃たねば次に撃たれるのは君かもしれんぞ。』
以前の上官の言葉が重なる。自分はあの時から、少しも変わってはいないのか。
とまどい、迷い、その結果、誰かを死なせてしまう。
自分を慕ってくれた友人を。
自分の苦しみを知り、心配してくれたあの人を。
そんな自分を責めるかのように、再び、親友の手によって失われてしまった仲間の命。
親友は何も迷うことなく、戦場を駆けていったというのに。
『ならお前、どことなら戦いたい?』
…誰と、何と、戦わなければならないのか。答えは未だ見つかってはいないけれど。

 変わりたい。改めて強く思う。
 この世界が、真っ赤な色で染まりきってしまう前に。

「貴方のようになれるよう、頑張ってみます。ハイネ…。」
 あの人と同じオレンジ色の光が、暮れゆく世界を穏やかに染めていく。

――END







Update:2005/04/04/THU by snow

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