Deathtiny



つくづく、甘い奴だと内心舌打つ。
まだ半人前の頃から、1人で何も解決できず、誰かに助けられたり、
誰かに守られたりして生き延びてきた自分には、
まだ今になってもそんな甘い心が染み付いているというのか。
もう、20もとうに過ぎた年齢。
自分は1人だ。もはや誰も助けてはくれない。
こんなご時世、自分は自分自身の手で守らなければ命はない。
ましてや、軍という組織に籍を置いていながら。
敵に捕らわれれば、命を奪われたも同然。
死にたくなければ、全身全霊をかけて阻止せねばならないことだというのに。
それなのに、あの銃撃戦のさなか、
目の前を過ぎる生き物に、フラガは一瞬引こうとした引き金を躊躇してしまっていた。
たった0コンマ1秒の意識のぶれは、こんな時死を意味するに他ならないのに。
案の定、はっと顔を上げたときには目の前の男は嬉々として狙いを自分に定めていて、
本気で死を意識する。
次の瞬間、強烈な衝撃音と共にフラガが見たのは、
ぶれる視界と、真っ赤な血と、狂気じみた兵士のその笑み。
まったく、どうかしていた。
たかが白い鳥が目の前を過ぎったからといって、どうしてその手を緩めたのか、
今でもフラガにはわからない。










「フン、また来たのか」
「うるせーよ」

椅子に縛り付けられたままのフラガに、独房にやってきたクルーゼは鼻で笑った。

「いい加減、やめにしてもらいたいな。何度私の失態を増やせば気が済むんだ?貴様は。上司もお怒りでな、今度こそ抹殺命令が出されたぞ。・・・私も同感だが」

手にした銃を布で拭く。
相変わらずの仮面の下で余裕を見せるクルーゼは、
今度こそこの男を殺せと命を受けてきたのだろう、愛用のそれを丹念に磨いていた。
フラガは何度か、こうやって敵軍ザフトに捕らわれては、クルーゼの世話になっていた。
というのは、彼の失態と称して、彼の手を借り拘束を逃れてきたからだ。
情けないことだとは思う。
だが、背に腹は変えられない。
こんなところで死ねない。やるべきことはまだまだ残っているのだ。
カチャリ、と安全装置を外されフラガはごくりと唾を飲む。
死ねないのは、今回も同じだった。

「へっ・・・昔のコイビトを、銃で撃ち殺そうって?」
「ほう。こんな時ばかり恋人気取りか。なかなか笑わせてくれる」
「・・・っ!!」

銃声が聞こえ、肩に焼けるような痛みが走った。
思わず肩を抑えれば、溢れ出てくる赤。クルーゼのもつ銃が、フラガの肩を掠めていた。
傷自体は大したことないものだったが、フラガの背筋に恐怖が走る。
見上げた男の顔には、本気の色が滲み出ていた。
きっとフラガは男を見上げる。

「・・・こんなトコで、死ねるかよ・・・」
「何人のヤツラがそう言ってここで死んでいったか、知ってるか?」

淡々とした口調と、嘲るような口元。

「さすがのお前も命運が尽きたな。生憎だが、生かしておくつもりも、逃がすつもりもないよ、ムウ・ラ・フラガ」

もう一度しっかりと額を狙う銃口は、冷徹で、残酷で、
その先に見えるものは死でしかない。
殺される直前になって、はじめてフラガはその恐怖に情けなく顔を歪めた。

「なぁ・・・あんた、本気かよ・・・?」

震える声音は、懇願するようにクルーゼを見上げる。
その慈悲を縋るような目をしたフラガに、クルーゼは軽く口の端を持ち上げる。
クルーゼの手が伸ばされ、すっとその顎を掴んだ。

「さぁ?どうだろうな」

両腕を後ろに縛られたままのフラガに、唇を寄せる。
絡む舌は懐かしく、フラガは目を閉じてその感触を貪った。
なぜなら、こうなることはいつものことだ。
互いに飢えた身体は、どんな形にせよ逢えたことを悦ぶ。ザフトに捕らわれるたびにクルーゼと交わるのは当然で、その代償とばかりに逃がしてくれることもしばしばだったから。
今回もまたそのパターンで、珍しくフラガはクルーゼに甘えるように身を寄せる。
肩の痛みであまりマトモな思考はできなかったこともあるかもしれない。
縋るような瞳で男の顔を見上げ、甘い吐息を洩らす。
案の定クルーゼはキスを続けたままで、フラガを拘束していた枷を次々と外していった。
このまま抱えられ、部屋に連れて行かれるのが常だった。
瞳を閉じて、クルーゼの肩に両腕を回す。
痛みは気にならなかった。男の熱が心地よかった。
・・・―――だが。

「言ったろう、生かしておくつもりはないと」

硬質な声音が理解できないまま、フラガはもう一度銃声を聞いた。
今度は左足に痛みが走り、床に立たされていた足が縺れる。
バランスを崩し、倒れ込むフラガにあわせて、クルーゼはフラガの身体を冷たい床に押し付ける。
衝撃に流れ出す血は床を汚していった。

「あ―――・・・!・・・っ、クルー、ゼ・・・」
「勿論、・・・そうだな、私なら―――。お前の身体をみすみす捨て置くつもりはないな。・・・捕虜の末路を知っているか?醜い者は死、綺麗な者は兵士達の慰み物、だ」

フラガは息を呑んだ。
クルーゼの口調が、あまりに楽しそうだったからだ。
ぐっと肩を掴まれ、痛みに顔を顰めた。
あふれ出る血が、肌を汚す。心臓が信じられないほどに高鳴っているのを、
フラガは信じられない思いでクルーゼを見上げた。
このままでは、きっと出血多量で死んでしまうだろう。
それとも、クルーゼは元々そのつもりだったか。

「ああ、本当に惜しいと思うよ。こんなにキレイなのに」
「っ・・・」

白い肌に唇を落とされ、フラガの身体が震えた。
逃れようとしても、右肩は痛みに動かすことさえ出来ず、左腕は足の痛みに耐えるように腿に添えられたまま。
痛みに意識を保っているだけで、本当は精一杯だった。
そんなフラガを、クルーゼは容赦なく貪り始めた。

「や・・・、あ、あっ・・・」
「感じているのか?」

嘲るように笑うクルーゼの声音に、しかしフラガは聞こえていない。
激痛に苛まされ、脂汗すら流しながら、男が与える胸元への刺激に身を震わせる。
きつく食まれた乳首が赤く熟れたような色を見せ、
クルーゼはその色に魅せられたように目を細めた。
クルーゼはフラガの下肢に手を伸ばした。
ボトムの上からその部分を探れば、フラガの身体が逃げるように捩れる。
嫌だ、と首を振るフラガは、ほとんど無意識に拒絶の意を示していた。

「あ、や・・・!やめっ・・・!」
「聞こえないな・・・」
「いっ・・・!」

乱暴に衣服を剥ぎ取られ、フラガは悲鳴を洩らした。
血で張り付いた傷口がより開き、どくどくと肌を汚す。
痛みと羞恥で意識が朦朧とする。
ただ、クルーゼの狂気じみた空気だけが、フラガを包み、逃れさせない。
自身を強く掴まれ、なぜか昂ぶっていたそれを扱かれる。
こんなに苦痛であるにも関わらず、与えられる快楽に声をあげ続けるフラガは、
そのまま簡単に精を放ち、そして意識を失った。
血の気を失くした頬に、クルーゼは口付ける。
それは、愛していた男に訪れた死を悼む心か、それとも別の感情か。
クルーゼ本人でしかわからない。
気づけば、周囲は捕らわれた男の血に濡れ。
錆びたニオイが強く染み付いていた。




















死んだフラガの肉体を、クルーゼは部屋に運んだ。
もう既に、男の死を上に報告してきた。
今はあの独房の血も流されているかもしれない。
人間が生き続けるにはあまりに多い出血量。
蒼白なフラガの顔は冷たく、生き返るとも思えない。
だがクルーゼは無言でフラガをシャワー室に押し込むと、湯船に浸け、汚れた肌を洗い流した。
傷口は、きちんと消毒し、薬をつけ、包帯を巻く。
実際傷自体はそれほどひどいものではなかったから、手早い処置をしていれば治っていただろう。
ベッドに彼の身体を横たえ、クルーゼは今だ意識の戻らないフラガを見下ろした。
死にかけた男の心臓がまだ途絶えていないのを確認し、
傍らの栄養剤を口に含む。
フラガが目を開けたのは、液体を飲ませて数時間後だった。

「一度死んだ気分はどうだ?ムウ」
「・・・あ・・・」

壊れたような返事を返すフラガに、クルーゼは顔を覗き込む。
濁ったようなフラガの瞳は、クルーゼを映すとみるみる意志が戻ったように大きく開かれた。

「・・・・・・クルー、ゼ・・・?」

自分の置かれた状況がわかっていないフラガは、
目の前の男にひたすら戸惑いを覚えるばかり。
軽くからかうような笑みを浮かべて、クルーゼはフラガの唇を貪った。

「あ、んっ・・・」

びくり、と身体を震わせて。
それでも、フラガはクルーゼに身を任せたまま、キスを受け入れていた。頬に濡れた筋ができる。口内で体液がくちゅりと音を立てる。
長い長いキスが終わり、名残を惜しむようにゆっくりと唇を離した2人の間に、銀糸が引いた。
見上げるフラガの潤んだ色に、クルーゼは獣じみた表情をつくった。

「ど、なってんだよ・・・」
「お前は死んだのさ。覚えているだろう?」

ああ、確かに。
激痛。狂気。真っ赤な血の色。
思考を揺らしたフラガの脳裏に、絶望が浮かんだ。
痛みにかすんだ意識が、脱力したように揺れたとき、もう死ぬんだ、と確かにフラガは思った。
快楽に浮かされ、嬌声をあげながら、
その理性は確実な死の訪れを意識していた。
そして、意識を失った。
きっと、あのまま自分は死んだのだ。だが、それならばなぜ今自分はここにいるのだろう?

「ムウ・ラ・フラガは死んだ。今日からお前は、もう地球軍でも、ザフトの捕虜でもない」

人をバカにしたような口調は、相変わらずだ。

「私の玩具、だよ」
「・・・・・・!!!」

クルーゼのその言葉に、フラガは後辞去った。
無論、実際はクルーゼに押さえ込まれ、身動き一つできなかったのだが。
ずい、と近づくクルーゼに、フラガは渾身の力でその腕を突っ張った。

「や、めろ・・・」
「無理だな。お前に選択の余地はない」
「あ・・・!」

強く下肢を握り込まれ、快楽というよりは苦痛にフラガは声をあげた。
男の下から必死に逃れようとはするものの、少しでも力を込めれば先ほど受けた傷がずきずきと痛む。
巻かれた包帯から赤い色が滲むのに、フラガは唇を噛み締めた。

「どう、して・・・っ・・・こん、な事・・・!」
「どうして、だと?そうだな」
「・・・!」

クルーゼはフン、と鼻を鳴らすと、フラガの身体をうつ伏せにした。
思わず痛む腕と足を庇うフラガの目の前に、信じられないものが突きつけられる。
それは、クルーゼ自身。思わず息をつくフラガの口内に、クルーゼは無理矢理怒張したそれを押し込んだ。

「ん・・・う―――・・・」

苦しげに眉を寄せるフラガは、思い切りクルーゼを押しやろうとしたが、
それよりもフラガの髪を掴むクルーゼのほうが力は上だ。
喉の奥に突き立てられ、吐き気すら覚える。だがそれをクルーゼは許さない。
強引に男に奉仕させられるフラガの瞳は、屈辱に傷ついた色を見せた。

「く、ふ―――ぅ・・・」
「お前が欲しかったから・・・、かな」

くすり、と笑うクルーゼの言葉はただからかうだけの意味しか持たず、
到底本気だとは思えない。
悔しさにフラガは身体を支えていた腕でシーツを噛み締める。
苦しさは最高潮。知らぬ間に涙すら零れてくる。
嫌だ、と喚く心のままに奉仕させられるフラガは、また一回り大きさを増したクルーゼのものを含みきれず、思わず突き飛ばすようにクルーゼから離れてしまっていた。
その瞬間、視界を染める白濁。
顔面を汚すそれは、考えるまでもない。考えたくもなかった。

「フン・・・大人しくない玩具だな。そんなに穢されたいのか?」

からかうように口の端を持ち上げたまま、クルーゼはフラガの髪を強く掴んだ。
自身の先端で男の顔を汚すそれを塗りつける。
生臭いような男のニオイが鼻につき、フラガは顔を背ける。
だがしかし、頭を捕らえられたままのフラガには、クルーゼを拒絶するすべなどとうになかった。
ただ、玩具として弄ばれる以外。
彼の存在意義はもはや残されていなかったから。

「・・・っ、い・・・!」
「立場をよく考えることだな」

拒絶の言葉を紡ごうとしたフラガの髪を強く引く。
反射的に顔を上げさせられたフラガは、そのまま強引なキスを受けさせられた。
髪ひとつで身体を引き上げられ、痛みに顔を顰める。
身体に力がほとんど抜けた頃、クルーゼはフラガの髪を手放した。
脱力し、シーツに沈み込む彼の腰を持ち上げ、自身を宛がう。
フラガは息を呑んだ。
慣らしもしていないその部分は、到底クルーゼ自身を受け入れられるような状態にない。
だというのに、クルーゼは容赦なく腰を進めてくる。
フラガに懇願の余地はなかった。

「ああーーー―――・・・!!」

ただ、激痛の悲鳴がフラガの唇を割った。
クルーゼの荒い扱いに、巻かれた包帯は解け、むき出しの傷がシーツに擦れ、血を流していた。
クルーゼは構わない。ただ、その欲望のままにフラガに腰を打ち付ける。
ギシギシと鳴るスプリングに合わせて、フラガの肌が擦れ、奥が裂かれるように痛む。
快楽とは到底言い難いその行為に、フラガはただ耐え続けていた。

「・・・いいな、お前の身体は・・・」
「っ、や、めろ・・・っ!!」

ぐっ、とひときわ強く中を擦られ、クルーゼ自身のすべてがフラガの内部に押し込まれる。
無理矢理開かされた内部は悲鳴をあげながらも、その内壁を擦られる感覚に収縮を始めていた。
フラガの全身に痺れが走ったように震える。
痛みに苛まされた体が、快楽を訴える。
白いシーツが血に濡れ、赤く染まった。クルーゼは目を細めた。

「ああ、も、や、ぁ・・・!」
「やめて欲しいか・・・?ムウ」

男の名を呼び、クルーゼは甘く囁いた。
朦朧とした頭で、フラガは必死にこくこくと頷く。この灼けるような痛みと快楽をどうにかして欲しかった。これ以上続けられることは恐怖だった。
自分が、自分でなくなってしまうような。
自分のすべてが崩壊し、壊れてしまいそうな恐怖が、フラガを襲っていた。
いっそ、壊れてしまえばラクだろうに、自分にしがみつくフラガに、クルーゼはただ哂った。

「あ、やめ・・・」
「玩具なら玩具らしく抵抗をやめたらどうだ?お前がそれを自覚しない限り、このまま責め苦を続けてやるしかないがな。どうする・・・?」
「・・・・・・!!!」

耳元で恐ろしい言葉を吐くクルーゼに、しかしフラガは目を閉じる。
もはや、この苦痛を耐え続ける気力はなかった。
フラガは唇を噛む。
ああ、いっそ。
あのまま、死んだほうがよかったかもしれないと、ぼやけた意識のままフラガは思う。
これから玩具としてクルーゼに扱われる日々が恐ろしかった。
けれど、自分を生き返らせたのは、この男だ。

「さぁ、ムウ。お前は私の何だ?」
「っ・・・・・・」
「言え、ムウ・ラ・フラガ。お前は、私の・・・?」
「・・・が、玩具だ・・・あああ!」
「よくできた」

強く奥を擦られ、フラガは仰け反った。
クルーゼはフラガの前に手を伸ばす。既に濡れそぼっていたそれは、クルーゼが手で軽く刺激してやるだけでぱたりと先走りをシーツの上に零す。
苦痛は変わらない強さでフラガを苛んでいたが、それ以上の快楽をクルーゼに与えられ、
フラガは嬌声をあげていた。
背後から抱き締められる。男の熱に浮かされる。
フラガは瞳を閉じた。もう、抵抗する気力もなかった。
男の与える感覚すべてに身を委ねた。苦痛も、快楽も、すべてがフラガの中で熱に変わった。
熱く、焼けるような。
どろどろに溶かされるような、そんな熱。
もう、どうなっても構わない。
オレは、・・・ムウ・ラ・フラガという「個」は、どこにもいないのだ。
ただ、クルーゼという存在に浮かされるイキモノ。
耳元でクルーゼが笑う気配を感じた。
背後から抱かれる感覚は、昔を懐かしいと思わせた。
優しくて、強くて、身を委ねてさえいればなんの悩みも苦しみも忘れさせてくれた、
そんなクルーゼの腕を、思い出させた。

「あぁ、ク、ルーゼ・・・」

―――好きだった。
確かに。だというのに、どこで間違ってしまったのだろう、自分たちは?
今更考えても仕方ないことだと、フラガの理性は哂った。
敵軍に所属し、敵対し始めて何年が経ったことか。
もう、あの頃には戻れない。
わかっている。わかっているからこそ、やるせなかった。
それとも、このまま、彼の玩具でいれば、
傍にいられる?
愛していた男の、すぐ傍に。

「あ、お、れは・・・っ・・・あんたの・・・っ」
「ムウ」

クルーゼはフラガを上向かせ、深く唇を重ねた。
下肢を繋げたまま、舌を絡ませる行為はひどく甘く、何も考えられない。
ただ、狂ってしまいそうな熱に浮かされ、
フラガは頭を振り、快楽を訴える。
クルーゼはひときわ強く奥を貫くと、激しい衝撃にフラガの意識がぷつりと切れ、クルーゼの手の中で精を放ちながらその意識を失う。
憔悴しきってシーツに沈むフラガを、クルーゼは笑みを浮かべて見下ろした。
そう、この男は玩具。
やっと手に入れた、愛しい愛しい自分の所有物。




「ああ、もっと早くにこうしていればよかったな」

そうすれば、長くすれ違いの時を歩まずに済んだのに。
でも、もう終わったことだ。
今腕の中に彼がいる。それだけで十分じゃないか?

「愛しているよ、ムウ・ラ・フラガ」

ああ、殺したいほどに。





end.












Update:2004/08/16/MON by BLUE

小説リスト

PAGE TOP