Prisoner U



男は、有無を言わさず自分を辱めてきた。
会ったこともないはずのその男は、けれど自分の全てを知っているとばかりに笑みを浮かべ、蹂躙する。
考えたくもないというのに、浮かぶのはあの時意味深に口の端を持ち上げた彼の顔ばかりで、
フラガは唇を噛んだ。

「っ・・・くそっ!」

やり場のない怒りから、強く壁を素手で叩く。
けれど、厚い壁で囲まれたこの独房の中では、いかに強く叩こうとも外の衛兵たちにさえ聞こえない。
朝か夜かもわからない、一様に薄暗さを保つ中、フラガはため息をついた。

出された食事は、とうの昔に冷え切ってしまっている。
丸2日食べていないフラガは、幾分やつれたようだった。
あの時自分を貶めた男は、あれ以来来ていない。
ただ無感動な表情をした兵士達が、機械的に食事を持ってきては、冷めたそれを持っていく。
噂には聞いていたが、コーディネイターには感情まで操作された、もはや人間とはいえない存在がいるらしい。
おそらく、あの兵士たちもその類なのだろう。
フラガは壁に寄りかかると、体力の落ちた体を休めるべく背を預けた。


それにしても。
ここは、本当に静かだ。
あれから、地球軍がどうなったのか、ザフト軍に全滅させられたのかわかるはずもなかった。
そして、あの白いモビルスーツ―――――。
自軍のデータには入っていなかった。おそらく、ザフトの新型MSなのだろう。
フラガが見る限りでは、ザフトの汎用MS『ジン』よりかはよほど能力値が高い。
しかも、あのパイロットだ。
どうしても反応速度の遅い地球のMAでは、おそらく歯が立たないだろう。
その上自分までが戦線離脱していることに、フラガは悔しさを噛み締めていた。
そんな時、重い扉が開かれた。
もう食事の時間かと顔を上げたフラガは、瞳に映る白に目を見開く。
入ってきたのは、あの、仮面の男だった。





「・・・食べないのか?」

掛けられた声に、フラガは横を向く。
応える気など、さらさらなかった。
クルーゼはその様子にふぅ、とため息をつくと、フラガの拘束されている壁に自分もまた座り込んだ。
フラガの側に、持ってきたプレートを置く。

「・・・食事は、食べておいた方がいい。体力落としたら後々困るぞ」
「―――っ、お前には関係ないだろ?!」

あくまで淡々と言葉を紡ぐクルーゼに対し、フラガは声を荒げる。
先日の羞恥と屈辱を思い出し、ふつふつと怒りが湧いてきていた。
自分にあんな行為を強いておいて、何事もなかったように振舞う男が許せない。
反抗を露わにするフラガの表情と瞳の色に、クルーゼは目を細めた。

「・・・相変わらず反抗的な奴だな、お前は。・・・まぁいい。食べたくなったら食べるといい」

私を殺すつもりならな、と笑い、プレートの上の簡素な食物に手を伸ばす。
敵は同じものを食べているのに、自分だけ意地を張り続けているのもバカバカしくて。
ヤケになって自分もまた手を伸ばすと、クルーゼはくすりと笑ってそのままフラガを見つめた。
ふと顔を上げれば、合わさる視線。

「・・・なんだよ」
「いや。・・・懐かしいと思ってな」

その言葉に、フラガは眉を寄せる。
そうだ、前にもそう言っていた。
過去の自分を知っているかのような、余裕に満ちた声音。
しかし、自分は知らない。こんな男、指揮官ラウ・ル・クルーゼとしての脅威以上のことなど、フラガの記憶にはなかった。
そう―――――、過去の記憶のどこにも。
フラガは改めて男を睨み付けた。

「お前・・・何故俺のことを知っている?お前は誰だ?」

真剣な目で見据えてくる男に、クルーゼは口の端を微かに歪ませる。
けれど、反応はそれだけで、フラガは唇を噛んだ。

「・・・それを聞いて、今のお前になんの益がある?どうせ私の手の中で溺れているだけのお前が」
「くっ・・・溺れてなんかいねぇっ!」

声を荒げるフラガに、昏い感情が込み上げてくる。
先日の、抵抗のまま痴態を晒す様がまた見たくなって、クルーゼはフラガの上に乗り上げた。
息を飲む男に構わず、強い力で顎を掴み、自分のほうを向かせる。
精一杯の抵抗を示しながらも怯えの色を隠せずにいる男に、クルーゼは冷たい笑みを浮かべた。

「そんな顔をするから・・・・・・、私はお前をめちゃくちゃにしてやりたくなるんだよ・・・フラガ・・・」
「・・・っ」

どこか陶酔したような口調で言う男に、言いようのない恐怖を覚える。
もう、運命は決まっていた。逃れられないこともわかっている。それでも、フラガは逃げようと身を捩った。
けれど、迫る男の肩に突っ張る手は、いとも簡単に壁に縫いとめられる。
ざらりとした冷たい壁の感触と、男が体全体で押さえ付けてくる苦しさに、フラガは息を詰めた。
そんな男の態度に、クルーゼはただ笑う。
蹴り飛ばそうと振り上げた足は易々と男に捕らえられ、服の隙間から覗く滑らかな肌を舌で舐められた。

「や・・・ぁ!」

濡れた感触。それが外気に晒されひやりとした感覚がフラガを襲う。
閉じていたはずの足をMの字に開かされ、その間に男が在ることが、あまりに現実離れしているように思えた。

「ふふ・・・いい子だ・・・フラガ・・・」

ただでさえ体力の落ちている体。それから抵抗の色が薄れていく。意識も一緒に失えられれば、とフラガは瞳を閉じた。
耳元で聞こえるかすかな笑い声。そして、下肢から聞こえてくる衣擦れの音。
もうどうせ一度暴かれているのだ。屈辱には耐えられるはずだった。
ひんやりとした外気が素肌を晒した下肢へとまとわりついてくる。
次に襲うはずの男の愛撫は、しかしいつまで経っても来ず、フラガは薄目を開けてクルーゼを見やった。
自分の下肢を舐めるように見下ろす彼と視線がぶつかる。

「な、に・・・を・・・!」

羞恥に紅く染めた目元で目の前の男を睨み付ければ、クルーゼはふっと笑って組み敷く男の中心に指先を絡ませた。
それだけでびくっと波打ち、ゆっくりと勃ち上がってくるフラガの雄。
焦らすような淡い愛撫に、フラガは唇を噛んだ。
一向に激しさのないそれは、不覚にもフラガの中に寂しさを生み出していく。
フラガの意志に反して、体があの解放の感覚を求めてうずいているようだった。
解放の感覚―――――そう、何もかもがどうでもよくなってしまうような。

「・・・やくっ・・・!」

無意識のうちに洩れてしまった恥ずかしい言葉に、フラガは目を見開く。
自分から懇願するなど、あるまじき事だった。
こんな屈辱を与えられ、それでもなお体は快楽に溺れようとするのか。
先ほど男が言った状態に早くもなりかけている自分が、嫌でたまらなかった。

「やめっ・・・ろ・・・」
「はやくと言ったりやめろと言ったり、一貫性のない奴だな」

先端を指先で弾いてやる。
思わず、といった風に甘い声を上げたフラガは、ぎゅっと瞳をきつく閉じた。
その上を、クルーゼの舌が辿っていく。

「・・・っ・・・!」

途端、激しさを増す手の動き。
それに合わせて、フラガの腰が揺れた。

「あっ・・・は・・・!」
「足りないんだろう?・・・ココだけじゃ」

耳元で囁いて、手の中で大きさを増すそれを扱いてやる。
先端のぬめりを掬って砲身に絡めてやれば、極限まで張り詰めたそれが解放を求めて咽び啼いた。
裏筋を指先でなぞり、フラガの反応を確認するように顔を覗き込む。
熱に浮かされたような揺れる色が、美しい青の瞳に映っていた。

「もう・・・イきたいか?」
「ん・・・!」

指先で、ゆっくりと唇をなぞる。
それから、抵抗を紡ごうとしたそれを自分の唇で塞いだ。
下肢にある手は、ひくひくと開閉するそこを焦らすように人差し指だけで先端の割れ目をたどる。
フラガは耐え切れずに、瞳をきつく閉じた。
体の奥から熱がせり上がってくる。

「・・・んああ・・・!」

充血し、赤黒く染まったそれを手のひらで包み込み、情のとば口を軽く引っ掻いてやっただけで、簡単に上り詰めてしまう。行為に慣れてしまった証拠だった。
粘液にまみれた手を眼前に突きつけられる。
自分の放ったモノを自覚して、フラガの頬が染まった。
その先には、口元だけで悦に入った笑みを浮かべる仮面の男。

「・・・お前が汚したんだ。綺麗にしろ」

放った精で白濁した指先を、苦しげに喘ぐ口に挿れてやる。
舌に触れる精の苦味に、フラガは顔をしかめた。

「・・・んう・・・!」

逃れようと首を振る。だが、もう片方の手で顎を強く押さえられた。
口内を蹂躙する指は、容赦なくフラガを追い詰め、指を動かすとくちゅっと淫猥な音が漏れてくる。
ひとしきり舐めさせてやっと抜かれた時には、放心したようなフラガの口の端から体液が糸を引いていた。
それを舌で舐め取り、クルーゼはにやりと笑う。

「さて・・・ここからが本番だ・・・」

その言葉に、フラガはびくりと身を震わせる。
他人の手で達かされること自体屈辱的なことだったが、これさえ終わればこの男は自分の元を去るだろうと思っていた。
それなのに、自分の体を押さえ付ける彼は、一向にどく気配を見せず、
先ほどの手は胸元を伝い、腹筋を辿り、下肢へと向かう。
下肢の奥の、そのまた奥を指先で触れられた時、フラガは驚きの声を上げた。

「・・・な!」

本来ならば排泄器官でしかないその場所。自分さえ触れたことのないそこに、他人の指が触れている。
そうと自覚した途端、朱く染まる蕾がきゅっと窄まる。
そんな初々しい反応に、クルーゼは口元を歪ませた。
フラガの唾液と精で濡れる指先を、ゆっくりと挿しいれていく。
押し入れられる異物感に、フラガは眉を寄せた。

「やめろ・・・」

恐怖からか、声は幾分震えている。
けれど、そんな拒絶の言葉などものともせず、指は熱い中へと侵入していく。
きつく締まった襞はなかなか侵入を許さないかわりに逃れることもさせず、クルーゼは内壁を押し広げるようにしてじっくりと開かせていった。

「や・・!」

痛みに脂汗がにじむ。

「痛いか?・・・力が入ってるからだ」

耳元でそう言い、ふっと熱い息をかけてやる。

「・・・!!」

耳の中まで感じてしまい、フラガの体がぶるりと震えた。
その瞬間、指先は奥まで入り込んでくる。
指を曲げられれば、言い知れない痺れが全身を駆け抜けた。

「・・・ぁ・・・!」
「ほう・・・初めてだというのに、もう感じているとはな」
「う、うるさ・・・!」

抵抗を露わにする男は、しかしあまりの羞恥に息を詰めることしかできない。
クルーゼが探り当てた場所を集中的に攻めてやると、びくびくと躍動する体が朱く染まった。
それと同時に、先ほど解放したばかりの彼自身も勃ちあがってくる。
反応の早さに、クルーゼは可笑しそうに笑った。
屈辱に耐えるどころか、必死に快楽を追う姿。

「や、め・・・!」

組み敷く男の真実の姿を暴かせたクルーゼは、もはや意味のない拒絶を紡ぐ唇を塞いでやった。
苦しげに寄せられる眉を見ながら、耳元で妖しく囁いてやる。

「ほら・・・見てみろ・・・これがお前の真実-ほんとう-だよ」

無理に顎を引いて下肢に目をやらせる。
立ち上がったそれを目の当たりにして、フラガは必死で目を逸らせた。
信じられない、信じたくない、・・・信じない。
こんなのは俺じゃない。フラガはそう心の中で叫び続けた。
けれど、現実は快楽の波となって容赦なく押し寄せてくる。

「どんなに嫌がっていても、一皮剥けばこんなものだ。人間というものはな・・・・・・」

あざ笑うような口調を浴びせられ、フラガは唇を血が滲むほどきつく噛んだ。
敵である男に思うように踊らされ、蹂躙される自分。
見たくなかった。消えてしまいたかった。
下肢の奥で2本に増やされた指が蠢く。熱を煽られ、熱い吐息が洩れる。
しかし、もはやフラガの視線は焦点を合わせていなかった。
ぼやけた視界の中、男の軍服の白さだけがはっきりと映っていた。
いつまでも。

熱が解放される、その瞬間まで。








飛び散った精液。
クルーゼが拭いていったためもう体にはまとわりついていなかったが、冷たい床には今だその残滓が残っていた。
つと、放心したままのフラガの指先に触れる。
濡れた指を見て、急速に意識が覚醒した。
しかし、それは、狂気という名の絶望。
フラガは震える手で視界の先にあった銀のナイフをとった。
プレートの上にあった短いバターナイフ。
それをまっすぐに喉元に刺す。
鈍い音と共に、壁にもたれた男の周囲は瞬く間に血の赤に染まっていった。







...to be continued...




Update:2003/02/11/TUE by BLUE

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