Episode V〜贖罪〜



死にたいと思ったことが何度かある。


自分が、利用される目的で創られたモノだと知った時。
ナチュラルだと思い込んでいた自分が、実は闇で処分されるはずだった異形の存在だと知った時。
そして、自分が自分らしく生きられないことを知った時。


俺は、プラントで生まれたんだそうだ。
・・・そうだ、なんておかしな表現だろうが、俺にはそういう認識がない。
記憶・・・というものが、どんなに曖昧なものかを思い知らされてる。
実験のために俺という人格を奪った奴が、また俺に偽りの記憶を埋め込み、地球に降ろした、というのが真実らしい。
母親がわりをしてくれていた女性には感謝をしている。死ぬまで、俺の母親役を演じ続けていてくれた。
出来るなら、・・・死ぬ前に、明かしておいて欲しかったけど。




母親として慕っていた彼女が死んで、俺は一人になった。

俺一人が住むには広すぎる家。それに別れを告げて、俺は彼女と過ごした記憶を確かめるように遺品を片付けた。
そうして。
母親の部屋の隅に、隠されるようにして置いてあったものを見つけた。
ずいぶん古い。
箱を開ければ、いくつかの文献とレポートと、そして数枚の写真が出てきた。
昔、彼女が研究者だったことは聞いている。
ただ、そのことを聞くとひどく憂鬱そうになることを子供心に敏感に察したのか、俺は詳しく問い詰めたことがなかった。
この中には、その理由の手がかりがあるのだろうか?
少しの恐怖と、それ以上の好奇心が俺を支配する。
けれど、今思えば、彼女の遺品を目にすべきではなかったんだ。
かくして、俺は真実の一端を知ることになる。
母親だと思っていた彼女が、本当の母ではなかったこと。
自分には同じ境遇の弟がいて、コーディネイターとして生きていること。
そして自分を創った者たちが、プラントにいること。
目的などわからない。ただ、ナチュラルとコーディネイター、それ以外の種を創ろうとしていたことは確かだ。
不思議と、その時はなんの感情も湧かなかった。
自分が、創られたものだったにしろ、今は普通にナチュラルとして生きてこれたのだから。
ただ、自分の・・・弟の存在が気になった。
当然ながら親戚も血縁もいない俺が、唯一のよりどころを失ってしまったことも一つの要因だったのかもしれない。
俺はプラントへと行くことにした。
どうせ、行くあてもなかったのだ。
弟に会うつもりはなかった。いや、会えるのならそれでもよかったが、
何より自分の生まれた場所が見てみたい、という気持ちに駆られたのが正直なところだ。
その頃は、まだプラントと地球との対立は目に見えるほどでもなかったから、行き来は大変というほどじゃなかった。
そして俺は、彼女の遺産を多少借りてプラントへと旅立った。


運命の日。それが迫っていることも知らずに。


『ラウ・ル・クルーゼ』
その名前は頭に刻み込まれていた。
今も昔も唯一の血縁、双子ではないにしろ同一遺伝子を持つというその男。
顔は似ているだろうか。瞳の色は同じだろうか。
くせまで一緒だったら、もう笑いが止まらないだろう。
プラント。彼の過ごした場所。
けれど、プラントはもはや俺とクルーゼにとって脅威であったことを、
その時の俺は全くわからなかった。
あいつが仮面を付ける理由。それが、そこにあったというのに。


そう、そして・・・その後俺がこのリストバンドを外せなくなった理由も。




プラント・・・罪人たちの贖罪の場所。
人々に理想郷と呼ばれる裏で、今も罪によって生み出された男が、贖罪を続けている。
俺が被るべき罪も、全て背負って。







Heaven or Hell ?




Update:2003/02/04/TUE by BLUE

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