Episode Y〜追憶〜



目の端に走る強烈な閃光と共に、
クルーゼは彼が死んだことを悟った。
うるさいくらいに伝わってきていたはずの彼の感情が、
今はもう何も飛び込んでこない。

「・・・ムウ・・・」

―――バカな男だ。
クルーゼは目の前の地球軍モビルスーツをビームサーベルで両断すると、
ふっと意識をフラガのほうに向けた。
交戦した時彼を殺さなかったのは、自分の甘さ故。
殺さなかったのではなく殺せなかったのだ、とあの男はわかっていたはずなのに。
(・・・こんなことなら)
自分が殺して置けばよかった、と一人ごちる。
あの男の性分だとはいえ、誰かを庇ってその命を落とすなど、
クルーゼはやはり目の前で見たくはなかった。



目を閉じれば、走馬灯のように蘇るフラガとの記憶。
戦闘中であることは十分承知していたが、
今のクルーゼはそれを追うことしかできなかった。








・・・フラガ・・・。









初めて会ったのはいつだったろう。
お互いまだ何も分からぬ少年時代、ただ好奇心で禁じられた場所へと足を踏み入れたあの時。
お前は不思議そうな顔をして私を見つめていた。
血の繋がりを明確に示す顔立ちと、何も知らない無垢な瞳。
その時は美しいと、綺麗だと思ったそれは、
けれど全てを知り、自分の運命すら悟ってしまった私には憎しみの対象でしかなかった。
お前の瞳は、私を映さない。
血を分けた息子であり、兄弟でありながら私の存在すら知らないお前。
その瞳に、私を刻み付けたかった。
愛などという感情ではない。もっと醜い、愚かな劣情とそして執着。
それなのに、お前は・・・。
何も言わない私を、純粋に、愛、して、くれて。
その時点で、私の、お前に対する復讐は終わったのだ。
お前は私を愛してくれた。私だけをその瞳に映し、腕を伸ばして必死に愛を乞うその姿は、
影で生まれ人の闇を歩かされた私の人生の中で、唯一の光で。
そうして私は、あえてお前に真実を告げないまま、人類への制裁のために空へ上がった。
お前は今でも気づいていないだろう。
お前のその心に深く傷をつけた過去の存在への思慕。
その相手がこの私だったとは、お前に何を言っても信じるまい。
それでいい。
どうせ、こうして殺し合う運命だ。
そんな記憶など、お前には苦しむだけのものでしかないだろう?
だが私は、
戦場で偶然出会った時、驚喜したよ。
もう一度会えるなんて、思っても見なかったからな。
案の定お前は他人に頼りにされるエースパイロットとして成長し、
唯一この私に立ち塞がる者として存在していた。
やはり私を止めるのはお前か、と皮肉げに笑ったものだよ。
父の過ちを、息子は正す義務がある。
運命がそう決め、私達が戦うのならそれでいいと思った。
私を好敵手として見てくれるのなら、なおさら。
かくして我々は幾度となく剣を交えることとなり、私は喜んでそれを受け入れた。
相変わらず何も知らないお前は、
今度は純粋に私に敵意を向け、仲間のために立ちはだかって。
過去に愛し合った仲だとわかっていたら、何か変わっただろうか。
いや、何も変わらなかっただろうな。今と同じように、お前は仲間のために死んだのだ。
後悔はなかったのだろう。他人のために、自分が犠牲になるのも厭わない男だった。
・・・誇りに思うさ。
私の一部を構成する愚かな心は、
とっさとはいえ私ではなく他の人間の手にかかったことを悔しいと感じるけれど。
まぁ、いい。
どうせ、私も同じ場所へ行く。
お前が一足早いだけ。
私はこの戦争の最期を見届けて、それからお前の元へいくから・・・
待っていろ、ムウ・・・









クルーゼは断ち切るように瞳を閉じ、ストライクの残骸に背を向けた。






Update:2004/09/22/MON by BLUE

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